とある針灸師の実情

針灸師・稻垣順也が、終わりのない自己紹介を続けていくブログです。

極みを目指す覚悟が医療者を楽にする

 

有病不治,常得中医.

これは、『漢書』の「芸文志」の「方技略」などにおいて紹介されていることわざである。

これを僕なりに意訳すると、「病気になっても医者に掛からず、成り行きにのみ任せておくのは、いつの時代でも中級の医者に掛かるのと同じ価値が有る」となる。

ここではまず、患者にとって価値の有る医療者がいかに少ないか、しかも、それが歴史的には珍しくない状態であることが述べられているように思う。自然治癒力以上の働きが出来る医療者は、いつの世も半分に満たないと言っているのである。

また、低級な医療者による不適切な対処が、病人にとってかえって害悪となり続けている現状を述べてもいるだろう。素朴な対処法しか無かったはずの前漢の時代でさえそう言っているのが実に面白い。

 

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上の動画は4月23日に行った勉強会の一幕である。

ここでは「表・裏」と「寒・熱」という鑑別をせずに患部へ鍼を刺すことの危険性を述べている。

別の見方をしてもらえば、「鍼の影響力がいかに大きいか」ということを言っている。鍼は、良くも悪くも、全身的な反応を確実に引き起こせる手段なのである。

学生の方々には、鍼の影響力をしっかりと認識し、その使いこなし方の研究を楽しんでもらいたい。医療職が後ろめたさ無しで生きていくには「中級」では駄目で、上級者となるしか道は無いのだ。単に自然治癒の邪魔をしないというだけで、貴重なお金を病に苦しむ人々から頂く訳には行かないだろう。

一方、患者サイドの方々には、患部への鍼のリクエストが自殺行為となり得ることを知っておいてもらいたい。自分の望む場所に鍼をしてもらえなかったとしても、それだけで施術者に対する信頼を失われないことを祈る。